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『実録!二代目奮闘記』  第6話 社員様特別交際費 ①



第6話
総務課長に地元中堅繊維会社を定年退職された人柄の良い岩井さんという方が入社されました。

忠志君はホッとしました。

これから、総務、経理の責任者として業務遂行の自信がありませんでしたが、人格者の経理マンが来てくれたのです。

お蔭で落ち着いて経営分析や企画する時間が忠志君に生まれました。
ある日、月次の試算表を推移表にして分析を始めたところ、妙な数値が目に入りました。

接待交際費です。
現在、お歳暮・お中元は総務が見ていますから全額把握しています。
それ以外の接待交際費は、お客様の接待と業界のお付き合いしかありません。
業界のお付き合いは社長が殆どですので、残りは営業の大石くらいです。
2年前まで営業だった常務の端本は現在製造責任者ですから殆ど交際費はないはずです。

早速交際費の伝票を全部めくりなおして調査しました。
おかしなことに、『バー寿美』の未払い計上が毎月発生しています。

此の頃、会社の業績は順調に推移し始め工場の残業が多くなっていました。
昭和の50年前後は月100時間の残業はあたり前の様な時代です。しかも、年間休日は70~80日、有給休暇は殆ど消化されず、有給を取る人は仕事が嫌いな奴、出来ない奴とレッテルが貼られる時代です。

忠志君も毎日10時ごろまで残業をしています。
或る時、そろそろ帰ろうかなと思い、帰り支度をして工場を突っ切って帰ろうとしました。
工場建物は東西に約100mあります。

向上に入って最初に大型プレスラインを通ります。
続いて小型プレスライン。
休憩所に2~3人作業員が深夜残業で残っています。

「お先に失礼します。」と言って休憩所の脇を過ぎようとしました。

と、良い香りがします。
醤油を焦がした日本人の好きな香りです。

此の時代コンビニエンスストアなんてものはありません。
お店はどこも閉まっています。

冬でしたらストーブで何かを焼いていることもありますが、夏です。

不可思議な気持ちを抱いた忠志君は、
「良い香りがしますね。」と言いながら作業者に近づきました。

焼きおにぎりです。
それも小さめのきれいな三角形をした醤油もムラの無い見事な芸術的な焼きおにぎりです。
「ええ、夜食の差し入れを戴きました。」
「へえ、随分上手な焼きおにぎりですね。」
「まあ、プロの作った焼きおにぎりだからね。」
「ああ。どこの焼きおにぎりですか?」
「それは知らないけど、端本常務が手配してくれて届くんです。」
「そうですか。じゃあ、御先に」

忠志君は、端本常務の奥様が作ってくれているのかなと首をかしげながら帰宅しました。
何か不信を感じた忠志君は翌日の晩も居残り、夜9時半ごろに守衛室に座っていました。

すると、暫くして軽自動車が入ってきました。

「今晩は、どちらさまでしょうか?」忠志君は尋ねました。
「あっ、何時もお世話になっています。あれ?赤城部長じゃないですか。寿美です。」
何と、その顔はバー寿美の料理人さんです。

「こんな時間に何の御用ですか?」
「端本常務さんから深夜残業が有るから焼きおにぎりを届けるように言われまして持ってきました。」
「?????」

本日は、大分長くなりましたので、続く。






『実録!二代目奮闘記』  第5話 管理職のバイト




総務部長に任命された忠志君。
まずは、社内規程類の整備を行いました。

労働協約の見直し、就業規則の見直し、賃金規定の見直し等々。
職務分掌の制定、職務明細の成文化。

一方、社員福利厚生の充実として文化体育委員会の設置。

それらのエピソードは改めてご紹介するとして・・・・・・

ある日、部下のタイムカードを確認いたしました。
すると、総務課長の仁野さんの遅刻が大変多いことに気づきました。
一月の内半分以上遅刻しています。

管理職は完全月給制ですから給料には影響しません。
それにしても、労働環境・条件を司る総務課長が毎日遅刻?

そんな疑問を持っているある土曜日(当時は週休1日制)、資材課の通称「トン子さん」が事務所内で
「次長、今日はいつもの所で良いのですね?」
資材課の向坂次長は
「おう、7時頃かな。」と言いますと、資材関連の社員の殆どが
「分かりました。」と相槌を打ちました。
忠志君は、これは課内のコンパだなと思い、
「私も参加して良いですか?仲間に入れてください。」と言いました。

誰も返事しません。
トン子さんは、眉間にしわを寄せ私の顔を見ながら離れて行きました。
とても、もう一度聞き直す状況ではありません。

「俺は、仲間として受け入れて貰えていないんだな。」と感じ、諦めた忠志君でした。

総務に優秀な女子事務員がいます。
忠志君より1つ下の正義感のあるキリッとしたお嬢さんで松下さんと言います。

「松下さん、資材課の人達が飲み会するようなんだけど、仲間に入れてくれと言ったら仲間外れにされたみたい。」と肩を落として忠志君は言いました。
「部長、無理ですよ。あの人たちは、部長を誘えない理由が有るんですよ。」
「えっ?何?」
「私が言ったと云わないでください。●●町(飲み屋街)にJINと言う店が有りますから、そこへ行けば分かります。」

はて?どういうことだろう。と思いながら、その夜忠志君はJINを探して町に出ました。
小さな街ですので、30分くらいで、とあるビルの2階にJINと書いたスナックを見つけました。

忠志君はそっとJINのドアを開けました。
そこで忠志君の眼に映った光景は驚くべき光景でした。

資材課の全員がカウンターで飲んでおり、隣りに外注先の社長が3名同席。
更に、驚くべき事は、カウンターの中にいるバーテンが仁野課長なのです。

一瞬にして忠志君は理解できました。

全員の顔を良く観察し記憶に残し、黙ってドアを閉めて忠志君は家路につきました。
その間、店にいた誰もが振り返って忠志君を凝視し、無言でいました。

そうです。
総務課長の仁野さんのお店で協力会社の社長さんが資材課の社員にタダ酒を飲ませているのです。

翌日、忠志君は仁野課長に問いました。
「あのお店は仁野課長のお店ですか?」
「そうです。でも、会社を退社をした後にお店をやってどこが悪いのですか!」
声を震わせ、顔を震わせ仁野課長は言い返しました。興奮すると顔を震わせるのは仁野課長の癖でした。

「副業・アルバイトは就業規則で会社の許可を貰うことになっています。社長の許可を戴いていれば問題ありません。」続いて忠志君は畳込む様に言いました。この辺が若さなのでしょう、利口さを発揮してしまうと不利であったり、年上であったり、勤続が先輩の方は攻撃的になってしまうのですが、まだ25歳の忠志君には無理でした。

「貴方は、毎日遅刻をしています。管理職は完全月給だからと言って、副業によって朝起きられずに遅刻し、協力会社の社長に自分の会社の社員への汚職の場所を提供することによって店の売り上げを得て、それが会社に迷惑をかけていないと言えるのですか! それが総務課長の有るべき姿ですか!」
「じゃあ、どうしますか、あなたが総務部長で上司だから私を首にしますか?」

言われたその瞬間に忠志君は切れました。

「私は総務部長でも解雇の人事権は持っていません。全て社長に報告します。決めるのは社長です。」忠志君も止せば良いのに、ドスの利いた低い声で言いました。
過ぎ去る忠志君の背中に向けて仁野課長は大きく首を震わせていました。

当然忠志君はこの件を直ちに社長に報告しました。
さすがの社長も顔面蒼白になり、仁野課長を即刻解雇しました。
ただ、他の社員と協力会社の社長については何のお咎めが有りませんでした。

しかし、人間の感情とは奇異な物で、忠志君が正しいことは誰もが解っていますが、喜んだのは製造現場で働く一般社員だけで、管理職と間接系社員は
「あいつは気に入らない奴は皆首にする。鬼だ。」
と、社内だけではなく、外注、飲み屋街で噂が流れ、
『赤城工業の忠志は、頭が良いらしいが悪魔の心だ。』と囁かれ始まりました。

これから、忠志君の苦悩は更に更に増して行きます。

つづく





『実録!二代目奮闘記』  第4話 銀行の信用は誰?



一つの実績を上げた忠志君は、本職ではありませんでしたが総務を任されました。

総務の部長が退職したのです。
総務部長の大木さんは、地元の大手自動車部品メーカーから社長に引き抜きされてきた人でした。

大木部長は毎日9時出勤。殆ど1日何もしていません。


或る時、社長夫人(忠志君のお母さん)の久子さんは業を煮やし、
「あんな仕事をしない人に高い給料を払って!首にすべきでしょう!」
と社長に食って掛かりました。

「そんなこと言っても、こんな会社の状態の悪い時に彼を首切ったら銀行から資金を借りられなくなってしまう。」と社長の峯吉さんが久子さんに言いました。

忠志君が後から久子さんに聞いた話ですが、何時も強気の社長の峯吉さんが、業績が悪化してからは臆病になってしまい、何時も眼がオドオドしていたそうです。多分既に鬱状態になっていたのでしょう。
余談ですが、追い込まれてしまった経営者は、本人は気付きませんが殆どの方が鬱状態になっています。

久子さんは峯吉さんに怒鳴りました。
「何を言っているのですか! 実印を押しているのは貴方でしょう! 銀行は貴方を信用して、貴方にお金を貸しているのです。 大木ではない!」

実は、大木部長が社長に
「今、私の信用で銀行はお金を貸しています。」と耳打ちしていたのです。
技術屋である峯吉さんは、気取った雰囲気の銀行員嫌いの為銀行交渉を全て大木部長に任せっ切りだったのでした。

怒鳴られた峯吉社長はハッと我に戻り、即時に大木部長を解雇しました。

そんなことがあって総務部長が空席となり、売価交渉の裏立役者となった忠志君を総務部長に抜擢したのでした。

ここから、更に忠志君の苦悩の人生が加速します。






A社の場合 第3話 ⇒ 『実録!二代目奮闘記』



 第2話からの続き

疲弊しきった会社に、一筋の僅かな光が射しました。

母親の訴えで、大学を卒業して家電大企業に勤めていた長男が急遽入社いたしました。

「碌な仕事も、社会も知らぬお前が入社しても、会社の再建はでき無い!」と、長男を巻込みたくなかった社長は入社に反対しましたが、
「丁稚奉公に行って、帰ってみたら会社が無かったと言うなら意味がない。」
と、強引に長男が入社してきました。

ここから『A社の場合』は、『実録!二代目奮闘記』と題を改めます。

A社は赤城山工業とでもしておきましょうか。
長男の名前は、赤城山忠志君。

入社した忠志君は、右も左も判りません。
唯々工場の中を見て廻る毎日が続きました。

また、役員会議に出席して意味の解らない議事を聞く毎日でした。

その間、忠志君はひたすら猛勉強をしました。
学生の時は、あんなに勉強嫌いでしたが、簿記、経営法務士育成講座(商法・税法・労働基準法・民事)、若手経営者育成講座(経営計画の立て方)、原価管理、などなど。

ある日、会議で不採算の仕事を撤退することになりました。が、実は個々の製品が不採算かどうか明確な資料がありません。
そこで、社長から初めて忠志君に仕事の命令が下りました。

「3日間で全製品の採算を証明せよ。」

初めての仕事で緊張が走る忠志君でしたが、これは、大変な命令でした。
何と、製品点数は2,000点有ったのです。

さて、困りました。

先輩や担当者も、材料費の算出方法や、外注費などの個々の計算は教えてくれますが、採算証明(個別標準原価計算・戸別実績原価計算)の資料はありません。

簿記の損益計算書を個別原価表に応用して様式を作成して見ました。
また、県が主催する若手経営者育成講座で教わった損益分岐点の算出方法を個別原価に応用し、限界利益率から逆算して個別売価の採算点を把握し、実売価と比較させました。

この方法で、3日間一睡もせず2,000点の採算証明と目標売価の設定を完了しました。

そして、1週間の間に社長は主要得意先を訪問し、売価見直しをお願いしたのです。

職人気質の社長は、『一度決めた売価は、二度と変えない。』が信条でした。
然し、毎年二桁で賃金が上昇する高度成長の此の時代には無理なことでした。

素晴しい技術に支えられた職人魂と、無知が招いた赤字だったのです。

同時に高度成長の善き時代でもありましたから、全てのお得意様が
『赤城さん、馬鹿だなあ、早く言ってくれれば良かったのに。』と快く売価見直しをしてくれました。

でも実は、時代の背景とは別に、赤城社長の生真面目さが危機を救ったことを、此の時、忠志君はまだ解りませんでした。

『実録!二代目奮闘記』と題を変えて、続く